大切な事はホスピタリティ。東京の下町・根岸のフレンチビストロ「料理店 吉田」。

ここ東京・台東区根岸は、所々に残る古い建物、神社やお寺も多く見られ、下町情緒を感じる町並みです。昔はこの辺りは花街と言って料亭や芸者屋が多かった場所だそうで、この町にこの秋にオープンしたばかりのフレンチビストロで、自身もこの町で母親の営む料亭の実家で育ったという吉田健二氏が営む「料理店 吉田」を訪ねました。
一見すると和食屋さんを思い起こさせる達筆な看板ロゴデザインは、お店を一緒に切盛りする武藤杏奈氏の筆書きによるもの。このロゴデザインは最初のお料理と一緒に提供される自家製のロールパンにも焼印されていることもあって、一度見ると忘れられないほど印象的なデザイン。そのロールパンも武藤氏が毎日焼いているそうで、ほんのり甘みのあるどこか懐かしい味わいで、これだけでもワインと合うと好評だそうです。
── バケットじゃなくてロールパンというのは珍しいですね?
吉田氏「小さい頃からロールパンが大好きだったので、お店を出すならロールパンを出したいと思っていたんです(笑)」
武藤氏「お客様が美味しいと言ってお替わりしてくれたり、お持ち帰りを希望されたり、そういうお声を頂けるのが本当に嬉しいですね。」
── カウンターをメインにされていることもあってキッチンとの距離が近いですね。
吉田氏「実はバーテンダーの経験があったこともあって、やはり直接お客様とお話しながら、お顔を見ながら料理を作りたいという気持ちがありました。ですから、今もできるだけカウンターをお勧めしているんです。」
── バーテンダーからシェフになった経緯をお聞かせください。
吉田氏「実家が料亭でしたので元々料理は身近で作るのも好きでした。バーテンダーを7年ほど続けた後、憧れだったスペインへ旅行をしたんです。スペインのお酒シェリーが好きで、その造ってるところを見たくて行ったのですが、その時にスペインのバル文化に惹かれ、帰国後は日本のバルで勤め始めました。
その頃から料理をやりたいという気持ちが強まっていきまして、今度はビストロで本格的に料理を学び始め、いくつかのお店で経験させて頂きました。」
── 地元での開業となりますが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか?
吉田氏「最初は東京の西エリアにあるような、例えば恵比寿や目黒にあるようなお店を、この東エリア、下町でもやりたいという気持ちがありました。ただそれだけではなく、そこに下町のホッコリ感をプラスして親しみやすい店づくりをしたいと考えていたんです。
以前勤めていたビストロがとてもおもてなしを大切にしているお店で、その経験からまずはホスピタリティを大切にしていきたいと思っています。お客様が幸せなお時間を過ごすお手伝いが出来ればと考えていて、その手段の一つとして料理もあるという事だと思っています。」
── カウンターにフレッシュのレモンやリンゴが並んでいますね。
吉田氏「私は果実をよく使うんです。特に魚介と果実の組合わせを推していますね。他にもサーモンとみかんや、鯛とレモンといった具合いにです。」
生産者の顔が見えると愛着が湧く、と実際に訪問して見つけた愛媛の宇和島のレモンは、酸味が柔らかく皮自体もとても美味しいそうです。そういったコダワリの食材を取り寄せ、様々な料理に使用しているそうで、さらにレモンはウォッカに漬けて自家製のレモンサワーにしてお出ししているそうです。






そんな吉田氏にお薦めの一品料理とスピリッツをお願いすると、ご用意していただけたのは、ズワイガニのほぐし身と茹でた里芋をペースト状にして、青リンゴとゴールデンキウイを使ったソースと合わせた「ズワイガニと里芋のリエット」と、リンゴ100%をベーススピリッツに使用した「ネバーシンクスピリッツのジントニック」。
里芋のねっとり感とリンゴのシャキシャキ感、そしてほんのりとした酸味が口の中でバランス良く広がる逸品。そこへ同じフルーティーなリンゴベースのジンが、爽やかに心地良く広がる見事なペアリングでした。
── ジントニックとも良く合いますね。スピリッツもお薦めしているのですか?
吉田氏「当店はワインがメインですし、ワインは食事ありきという面が大きいので、やはりワインとのペアリングというのは大切にしています。ですが、やっぱり好きなお酒で好きな料理を食べて頂いた方がお客様にとってもいいと思いますから、特に何かこれというような強要はしないようにしています。
ジントニックは最初のスターターとして食欲増進になりますので食前酒としてお勧めしています。もちろん食中酒としても適していまして、特に魚介料理にはとても相性がいいですね。意外にもジンはまだまだよく知られていないところもあるのが現状で、ワインがお好きな方にも変化球としてお薦めする時もあります。さらに最後のシメでサッパリと飲むのにも適していますね。つまり食前、食中、食後とあらゆるシーンでお勧めできる便利なお酒として捉えています。」
── シェフの目線からみて、今後のスピリッツはどう捉えていますか?
吉田氏「料理に使っていけたらと考えていますね。例えばメインディッシュのお魚やお肉のソース、マリネなどに使っていけたら面白いと思っています。そうしてできた料理は、よりスピリッツとの相性が良くなっていくと思います。」
── 料理を作るうえで大切にされていることを教えてください。
吉田氏「まずは盛った時のドレスがお洒落なことですね。提供された時に最初に入ってくる視覚は大切です。お客様にもまずは見た目が素敵でお洒落な印象を抱いてから食べて頂いた方ほうが、美味しさもより増すと思っています。
それから味については、塩味、甘味、苦味、食感の4つのバランスを一番大切に考えています。今日お出ししたリエットもそうですが、塩味、甘味に加え、上に乗せたフルーツの食感、かすかにかけたピンクペッパーの苦味がバランスとなっています。」
── お料理をスピリッツと合わせる場合はさらに工夫されるのですか?
吉田氏「スピリッツと合わせる場合はそのバランスに加え、同じ食材繋がりを意識して作っていますね。ドリンクの方で使ってる果実を、料理の方でも使うことで一体感が出てくるんです。」






バーテンダー時代からカウンター接客が面白かったという吉田氏。お料理の話はお客様ともなるべく簡潔にではありますが説明するようにしていて、コミュニケーションを取るように心掛けているそうです。しかしオープンキッチンの特性を活かして、お客様とお話をしながら料理を作るスタイルも、時には調理で手が離せない事も。そんな時はパートナーの武藤氏が上手にフォローしてくれるとのことです。
そんな武藤氏もハーブティーに力を入れていて、茨城の農園からハーブを買い付けてご自身でブレンドしているほど。また、料理の後にデザートと共に出されるコーヒーは、本当に最後に出てくるものだからこそ大切にしたそうで、吉田氏のお兄さんがコーヒー関連の会社に勤めてることもあって、コーヒーの豆もお二人で試飲しながら決めたオリジナルブレンドだそうです。
オープン仕立てのお店にお邪魔して感じたことは、お二人のいろいろな思いが詰まった共同合作のお店だということ。オープンまで様々な人が関わってきたこちらのお店には、これからも益々いろいろな人と触れ合う空間になっていくのだろうと思いました。
── 最後にこれから来店されるお客様に一言お願いします。
吉田氏「高級店だと思われてる方もいるようですがそんな事はなく、グラスワイン一杯から、ジントニック一杯からでお料理を楽しめる店ですので、肩肘張らずにお気軽にお越しください。」
今のところランチは行っておらず、まずはディナーをしっかりとさせたいというお気持ちだそうです。ぜひ訪れてみて欲しいお店でした!
尚、きたる大晦日は通常24時までのところ、特別に27時までの営業でカウントダウンを過ごせるとのことです。詳細はお店までお問い合わせください。