お酒の造り手と飲み手を繋げる架け橋に。世界のクラフトジンを取り揃えるカクテルバー「ネーブル」。

東京・中野の駅を降りてすぐに「cocktail bar NAVEL」はあります。カウンターだけの店内には100種類以上の世界中のクラフトジンが並びます。訪れるお客様は一人客が多くその半数は女性客だそうで、ジンに特化してることもあって、中にはわざわざ遠くから足を運んでくれる方もいるそうです。そして、来店される方の9割以上が1杯目にオーダーするのがジントニックだというのですから驚きです。
それはこちらでバーテンダーを務める大澤裕也氏がジントニックを勧めてきたことが大きいのでしょう。大澤氏はオーセンティックバーやレストランで修行を重ねてきた中で、そしてたくさんのお酒やカクテルと出会ってきた中で、特に思い入れが強くなったカクテルが「ジントニック」だと言います。






ジントニックは文字通りジンをトニックウォーターでアップした爽やかなカクテルで、バーによってはそこへライムやレモン、ソーダなどを加える場合もありますが、基本的にはとてもシンプルなカクテルなことに違いはありません。それゆえに、バーやバーテンダーの個性、あるいは使われる銘柄の個性がとてもわかりやすいカクテルだとも言えます。とくにクラフトジンは、世界中の土地のものを主原料やボタニカルに使用したり、製法も多様化しているため風味の違いが大きい。そのあたりも含め大澤氏にお話を伺いました。
── クラフトジンを取り揃えている理由をお聞かせください。
大澤氏「そもそも私はジントニックというクラシックカクテルへの思いが強かったのです。ジントニックはバーでなくても頼めるほど、誰でも知っているカクテルです。だからこそ、きちんとしたジントニックが飲めるバーにしたいと常々思っていました。
稀にジントニックが苦手という人もいます。それは先入観であったり、昔にいわゆるバーではないところで飲んだジントニックが印象に残っていたりする場合が多いです。でもそのような方にも、印象が変わる、美味しいと感じるジントニックを提供したいと考えていました。そういった中でクラフトジンの人気が世界的に広がりを見せ、当店でも必然的に取り揃える数も増えるようになっていきました。」
── クラフトジンの魅力についてお聞かせください。
大澤氏「カクテルにするにしても、大変多くのバリエーションが作れるのが魅力ですね。同じスタンダードカクテルでもそうです。そして何よりも、今まで苦手だった人にも美味しいと思える銘柄に出会えるところでしょう。」
── 今後のクラフトジンについてはどう考えていますか?
大澤氏「まずは一過性にならず定着して欲しいですね。その為には、ジンの作り手さんももちろんですが、ジンはカクテルのベースとして定着していますので、特にカクテルを作る私達バーテンダーが魅力を伝えていかないといけないでしょう。私個人としては、多彩なクラフトジンだからこそ出来る世界を伝えていきたいですね。例えば料理とのペアリングがそうです。この国のこの様なジンだから、こういう料理と合わせるといった具合に、とても料理と合わせやすくなりました。これもクラフトジンの魅力の一つですね。」
── どのようなお料理を出されているのですか?
大澤氏「あくまでバーですから、お酒ありきの料理ですね。特にジントニックを片手に飲んで貰うという事を軸に考えているところがありまして、例えばハーブ感を持たせた自家製のスモークサーモンや、ハーブを効かせた生ソーセージなどを提供しています。同じくハーブを使ったジンとはよく合いますので大変喜ばれています。」




さらに、大澤氏にお薦めのカクテルを作って頂きました。林檎のブランデー”カルヴァドス”を造っているカルヴァドス・クリスチャン・ドルーアン社の「ル・ジン」というジンをベースにしたショートカクテルです。スタンダードカクテル「ギムレット」をアレンジしたスッキリとした口当たりで、その中にも華やかさも感じられる逸品でした。
── 確かにギムレットらしさもありますが香りも豊かでとても美味しいですね。
大澤氏「ありがとうございます。ル・ジンはカルバドスを作ってる蒸留会社なのもあって、どちらかというとジューシーというよりは、ジンジャーやバニラなどのボタニカルを使いつつ、スッキリとしたジンらしさを備えた一本です。今回はギムレットをアレンジしましたが、女性らしさもイメージしていましたので、シンプルなシロップに加えグレナデンシロップも使って色味と香りを整え、バニラビターズも入れ華やかさを出しました。」
── カクテルを作る時に大切にされていることは何でしょうか?
大澤氏「バランスを大切にしています。甘酸味のバランスであったり、アルコールのバランスであったり。これはカクテルに限らず、料理や接客にも通じるものがあります。例えば、お客様との会話の量のバランスであったり。お客様によってバーでの望む過ごし方も異なりますので、それに合わせて一人の時間を楽しめるような空間であるように心がけています。」
── どのような所を意識してお客様にお薦めを提案されているのでしょうか?
大澤氏「お薦めは、”その人にとって” のお薦めを提案します。今まで飲んできたお酒などお話を伺って、その上でなるべく最初はスタンダードカクテルからお薦めします。やはりスタンダードカクテルであれば他のバーでも頼めますし、まずはバーを楽しいと思って欲しいですからね。あとは、ご自身がいつも飲んでるアルコール度数と同じくらいのカクテルで。まずそこが前提にあった方がいいと思っています。」
── 最後に・・・初めて来られるお客様へ一言お願いします。
大澤氏「お店に右足から入ると良い事あるらしいですよ(笑)。それぐらい大した理由などなくていいのです。きっかけは何でもいいですから、入りづらくても扉を開けて欲しいです(笑)。バーはむしろ入りづらい雰囲気のバーこそ、居心地良く過ごして頂けるように心がけてる可能性が高いですよ。」