素材の持つ”旨味”を探求し続ける。東京・両国のオーセンティックバー「エリシオ」

2008年にオープンした東京・両国にあるバー「Helissio(エリシオ)」。幼少から育った地元である両国に、これまでなかったオーセンティックバーを開きたい、という夢を実現させたバーテンダー上澤秀徳氏。地元で店を構えるとはいえ、決して内輪の雰囲気にするのではなく、あくまでバーとしての伝統的なスタイルを守り続けているお店です。その一方でバーカウンターに座れば、そこから提供されるお酒や料理には新しいものへの追及心を欠かさない姿が垣間見れます。
カウンターにまず目についたのが「アブサンファウンテン」と呼ばれる、お水を1滴づつ垂らすことができるサーバーです。アブサンとはヨーロッパでポピュラーな薬草系リキュールで、ニガヨモギ、アニスといった香りの強いハーブが使われ、加水すると白く濁るのも特徴です。これはアブサンに含まれる植物性の油脂が水を入れることによって分離して白く濁るわけですが、その水の注ぎ方によっては風味にも大きく影響を与えるそうです。水を一気に注いだ場合より、一滴づつ垂らす方が細かく油脂が分離し、それにより舌の上でも細やかに味を感じ取ることができます。ためしに両者を比較試飲させていただくと、その違いは顕著でとても驚かされます。香りは花開き、口当たりはとてもまろやかに変化しました。
上澤氏はこの旨味の詰まった油脂に着目し、様々なオリジナルのビターズも造っているそうです。オレンジやカカオといった柑橘類や種子の香味成分となる油脂を抽出し、それをお酒に浸透させて造ります。これはカクテルの材料としてとても重宝してるそうです。これらのビターズは1滴垂らすだけ香りが立ち、数種類ブレンドすることで複雑な香りを生み出すことができるというわけです。このビターズも納得するところまで完成させるために、初めは何度も繰り返し試したそうです。強い探求心があるからこそ出来ることですね。
この日は、バーボンウイスキー「ウッドフォードリザーブ」をベースに、これらオリジナルのビターズを入れたカクテル「オールド・ファッションド」を頂きました。複数のビターズとバーボンが見事に調和して、爽やかな柑橘系の香りに、まろやかで濃くのある口当たりに仕上がった見事な逸品でした。
料理においても、だしを取る時に使われる水の硬度を素材に合わせて調整するほどのこだわりで、素材の持つ旨味を上手に浮き彫りにしています。人気メニュー「エビのビスクとパン」もその一つで、エビの香りと旨味がたっぷりと詰まったスープでこれは絶品です。他にも挽肉を燻製にした「くんせいカレー」も人気メニューの一つで、意外にもこういった料理のメニューは少しづつ多くのお客様の要望に応えていくうちに、いつのまにか増えていったそうです。







そんな上澤氏はテキーラへの造詣も深く、テキーラ・マエストロの資格を有していて、バーテンダーとしてテキーラのイベント運営にも尽力されています。そんな上澤さんにお話を伺うことができました。
── テキーラの現在や将来についてお聞かせください。
上澤氏「テキーラをショットで一気に飲むといった文化があります。それはそれで一つの文化であり、メキシコにおいても行われているものです。それは日本でも見られるスタイルですが、日本では罰ゲーム的な形で行われてる事がしばしば見受けられます。少しそこが残念で、そうなってしまうとテキーラの印象が間違って伝わってしまいます。しかしテキーラをじっくり味わってみればとても美味しく魅力的なお酒です。これからの若い世代をはじめ、そういったテキーラ本来の魅力を私たちが伝えていければ、益々盛り上がっていくと思っています。」
── テキーラを飲み慣れない方や初めての方へはどのような対応をされていますか?
上澤氏「初めて飲む方であれば、まずはシンプルに上質なブランコ(樽熟成をさせない透明なテキーラ)を、何も絞らずにトニックウォーターを入れて飲んでいただくのをお薦めします。トニックウォーターの持つ甘みが、テキーラの持つ甘みを引く出してくれますので、それらとトニックウォーターの苦味が調和して味がシマりますので、とても美味しく飲みやすくなりますよ。
テキーラに限りませんが、お酒の素の味を知ることは大切ですから、最初の一口はストレートで飲んでもいいかもしれません。しかし強いお酒であれば、そのまま飲み続けるのは難しいですから、そうであれば私は水で割ったり、カクテルに作り直すなどの対応をしています。それが仮にどんなに高いお酒だろうと、無理してストレートで飲む必要はないですし、それならまた別の飲み方で楽しんで欲しいですね。」
── 初めてご来店される方に一言お願いします。
上澤氏「私も未だに初めていくバーの扉を開けるのは緊張します(笑)。でもそれもバーを楽しむ醍醐味の一つですから、勇気を出して扉を開いてください!」





とても気さくにお話して頂けたと同時に、バーテンダーのお仕事に対する情熱がひしひしと伝わってきました。こちらのバー「エリシオ」さんは、フルーツカクテルもお薦めで、常時たくさんの旬のフルーツなどが楽しめますので、初めてのオーダーもその辺りから頼んでみるのも良いかもしれません。それから、毎日変わるバラエティー豊かなお通しも楽しみの一つで、この日は野菜を煮込んだラタトゥイユでした。その日々のおもてなしに気遣う心にも、温もりを感じるバーだと思いました。
都営新宿線 森下駅より 徒歩8分
都営大江戸線 両国駅より 徒歩5分